サイコサイバネティクスの誕生

外科的処方では治せない患者

サイコサイバネティクスが誕生するきっかけとなったのは、当時、形成外科医だったモルツ博士のもとを訪れたある一人の女性患者でした。彼女は、交通事故で頬に傷を負っていました。そこで、モルツ博士は他の患者と同じように彼女の傷をきれいに治しました。

ところが、他の患者と異なり、彼女はきれいになった顔を見ても全く喜ぶ様子を見せません。確かに、彼女の頬の傷はきれいに治っていたのですが、心の傷が全く癒やされていなかったのです。


幸福になれない本当の理由

気になった博士は、彼女の事情を調べてみました。すると、彼女はその事故が原因で婚約者と別れることになり、相手の男性は他の方と結婚してしまっていたのです。彼女は、相手の男性に対する怒りと同時に、そのことで自分を責め続けていたのです。

モルツ博士は、自分がしてもいないことで自分を責めたり、相手の行動に対して自分を責めたりする必要なんてないんだ、と彼女に自分を責める必要性のないことを伝えました。

その意味を理解した彼女は、やがて立ち直ります。後日、彼女は新しい男性との結婚が決まり、その喜びをモルツ博士のもとに伝えに来てくれたと言います。


外面的な顔と内面的な顔

博士はこれをきっかけに自己イメージが持つ力に気づくことになります。つまり、彼女は外科的に治せる外面的な顔以外に、心の中には傷ついた暗い内面の顔を持っていたのです。そして、この暗い内面の顔(自己イメージ)が存在する限り、いくら外面の顔の傷を治療しても幸福にはなれなかったのです。

こうした事実に気づいたモルツ博士は、心理学の研究に取り組み始めます。やがて博士は、数学者のノーバート・ウィナー博士が提唱した「サイバネティクス」という考え方を取り入れた「サイコサイバネティクス」と呼ばれる新しい理論を発表することになります。